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演劇(ミュージカル)レビュー:「ヒカルの夏 ~龍馬からの伝言~」

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夏休み最後の2日、8月30日と31日に、霧島市でミュージカル「ヒカルの夏 ~龍馬からの伝言~」の公演が行われた。本公演は市民が参加し、市民の手によって作り上げた市民参加型ミュージカルである。以下、公演のレビューを紹介する。

※画像引用元:「NPO法人きりしま創造舞台」公式ホームページ

公演の概要

基本情報

公演名「霧島市市制施行20周年&きりしま創造舞台創立20周年記念ダブル20周年記念特別公演 市民ミュージカル 2025公演 ヒカルの夏 ~龍馬からの伝言~」

主催:NPO法人きりしま創造舞台

脚本・演出 徳満亮一

音楽 宮崎漢生 

日時:2025年8月30日(土)  18:00~
       8月 31日(日)  14:00~      

会場:国分ハウジングホール(霧島市民会館)

写真:国分ハウジングホール(2025年8月31日撮影)

「ヒカルの夏 ~龍馬からの伝言~」について

上演時間 110分(第1幕‐60分 第2幕‐50分  ※幕間休憩15分)

あらすじ

霧島市で暮らすヒカルは、幼い頃に両親を亡くし祖父と祖母に育てられた。
ある日、ヒカルの祖母が原発性の病で倒れる。ヒカルは祖母のために全力を尽くすが祖母の病を治すことは叶わない。
そんな時、桜島の爆発を起因とした強力な電磁波によって、ヒカルは数名の霧島市民と共に歪んだ時流に飲み込まれてしまう。
事態が理解できないヒカル達だったが、霧島市の悠久の歴史をたどる旅で自分たちがタイムトラベラーになった事に気付く。
そしてタイムトラベルの途上で、霧島にやって来た坂本龍馬と妻のお龍と出会う。意気投合したヒカル達と龍馬、お龍は、霧島市の歴史をたどるタイムトラベルを続ける。
しかし、その間も、ヒカルの祖母の容体は、次第に悪化していく。
果たして、ヒカル達は無事に現代の霧島市に戻れるのか!?
坂本龍馬の運命はかわるのか!?ヒカルの祖母は、助かるのか!?
様々なドラマの中で、ヒカル達がタイムトラベラーになった理由が明らかになる。実は、ヒカル達のタイムトラベルは、ある大いなる力によって引き起こされていたのだ。その大いなる力とは?

引用元:NPO法人 きりしま創造舞台「ヒカルの夏」(http://k-sozobutai.com/information/information-1619/ 2025/9/2参照)

脚本・演出を手がけた徳満亮一氏によると、今回の作品は2004年と2012年に公演された2作品を再構成した物語であるとのこと。NPO法人きりしま創造舞台の沿革を見ると、2004年に「ひかるの夏~風と光の故郷~」、2012年に「ひかるの夏~龍馬からの伝言~」の公演が行われたという記録があり、徳満氏が指すのはこの2作品であると思われる。

「NPO法人 きりしま創造舞台」について

2004年(平成16年)、「はやと創造舞台」としてスタート。2009年年(平成21年)「きりしま創造舞台」に改名、2012年(平成24年)にNPO法人化。市民参加型のミュージカル公演を中心に、文化芸術活動への参加の機会を市民に提供してきた。これまでの公演作品には、「大隅浪漫~1300年の時空を超えて~」、「宇宙に願いを~沙羅と星たちの物語~」、「ミラージュ~ガラスの翼の若者たち~」などがある。2015年「霧島市民表彰」受賞。

団体紹介|きりしま創造舞台

レビュー

霧島という土地

ヒカル達の旅を観ながら、霧島が改めて歴史のある土地だと感じた。まず、ヒカル達がタイムトラベルによって行き着いた場面とその資料的、歴史的事実を紹介する。

①神話時代:瓊瓊杵尊(ニニギノミコト)、猿田毘古神(サルタヒコノカミ)ら天孫降臨にまつわる神々と出会う。

天孫降臨神話-天照大神(アマテラスオオミカミ)の命を受けた孫の瓊瓊杵尊が、道案内の猿田毘古神とともに天上界である高天原(タカマガハラ)から地上である高千穂峰に降り立った出来事。神話上では日本建国とその歴史はここから始まったとされる。

「霧島」の由来は、この天孫降臨神話の中で、神々が霧にけむる下界の中で見えた島に鉾(ほこ)で印を付けたところから来ているとのこと。高千穂峰にある天の逆鉾(あまのさかほこ)は、この印づけのために天から逆さのまま落とされ、突き刺さった鉾であるとされている。この天の逆鉾(あまのさかほこ)は作品の中でも登場する。

②奈良時代:朝廷との戦いを前に決起集結する隼人族と出会う。

隼人の抗戦-720年から翌年にかけて起きた、南九州に先住していた隼人族と朝廷との戦い。この戦いで隼人族は朝廷側に敗北し、朝廷の支配に組み込まれることになる。

③明治時代:新婚旅行で霧島を訪れた坂本龍馬、妻おりょうと出会う。龍馬とおりょうはヒカル達のタイムトラベルに同行することになる。

1866年(慶応2年)3月、龍馬夫妻は新婚旅行として霧島を訪れた。このとき、龍馬夫妻は高千穂の峰にも登って天の逆鉾を目にしている。この二人の旅が日本の新婚旅行の始まりとされている。

④大正時代:霧島の小学校。学校の子供達と「茶わんむし」の生みの親、石黒先生と出会う。

茶わんむし―大正10年(1921年)に宮内小学校(現霧島市)に勤務していた石黒ひで先生が作詞・作曲した歌。鹿児島県ではポピュラーな民謡として親しまれている。曲名の「茶わんむし」は料理の茶わん蒸しではなく、茶わんに付いた虫のことを指している。

⓹昭和時代:太平洋戦争下の特攻兵と出会う。

国分基地特攻隊-国分基地には昭和18年(1943年)、出水海軍航空隊の国分分遣隊が設けられ、翌19年(1944年)国分海軍航空隊が開隊する。その後昭和20年(1945年)始め海軍特別攻撃隊の基地として使用されることになり、400人あまりの若い兵士が特攻兵として帰らぬ者となった。

神話時代、隼人の抗戦から龍馬、「茶わんむし」の誕生、そして特攻と、ヒカルが辿った歴史だけを見ても霧島は歴史的に奥行きがある場所だと感じさせられる。

霧島-鹿児島の地方都市ではあるが、俗に言うパワースポット的な力を感じさせる土地でもある。ヒカル達の旅でその断片を見せた霧島の歴史が、霧島を一地方都市として片づけさせない不思議な力を霧島に与えているのではないだろうか。

そして、この霧島の持つ歴史の奥行きや不思議な力は、タイムトラベルという超自然的な現象と親和性が高いものであり、霧島についての作品を作る上でタイムトラベルという設定は非常にマッチしていたと思える

子供達の演技

大正時代の小学校の場面、子供達だけで劇を進めるパートがあった。ホールはほぼ満員。千人近い観客を前にしてどの子もしっかり通る声で演技を行っていた。単純だが、あれだけ大勢の観客の前で堂々と演じられるのは凄い。始めから大きな声を出せる子供ばかりではなかっただろう。春から週2回の練習で本番に耐えうる技量を少しずつ身に着けてきたはずだ。そして、そんな子供達の演技から、子供達の指導に力を注いできたこの市民劇団の本気度も感じた。

新たなまちをつくること

今から20年前の2005年、国分市、溝辺町、横川町、牧園町、霧島町、隼人町、福山町が合併し、霧島市が誕生した。ミュージカルの中でも、この1市6町それぞれの個性と、霧島市の誕生について触れる場面があった。ただ、平成の時代に全国的に進めれた市町村合併は、財政を始め政治上の要求でなされた、いわば上からの改革であり、市民の意識レベルでの統合が必ずしも進められた訳ではなかったと考えている。霧島市もまた同様であっただろう。20年前の合併が、霧島に住む人々に「霧島市民」としてのアイデンティティを付与する必然性は無かったはずだ。

この作品は、新たな「霧島市」、「霧島市民」というアイデンティティについてアンビバレントな思いを去来させる。ヒカル、龍馬を始め作品の中を生きる人は、合併や新たな市の誕生を賛美する義理は無いと感じている。しかしながら、この作品が企画され、そこに霧島に住む人々が集い、ミュージカルとして舞台を作り上げていったことが、「霧島市民」という新たなアイデンティティを生み出すきっかけになっているのではないだろうか。

今回の公演は、霧島市ときりしま創造舞台がスタートしてともに20周年を迎えたことを記念して行われたものである。きりしま創造舞台、そしてその活動の黎明期から演じられてきたこの作品は、霧島市の歴史でもある。市町村合併が単なる行政単位の再編を超えて人々の意識レベルでの統合、連帯へと昇華できるとしたら、このような市民が楽しんで主体的に参加できる場があること、そしてその歴史を積み上げていくことが大きなカギとなるのではないだろうか。公演の観劇を通して、新たなまちづくりに対して市民劇団が持つ可能性を感じた。

参考

・霧島市「天孫降臨神話」(https://www.city-kirishima.jp/kirikan/kanko/bunka/tensonkorin.html 2025/9/4参照)
・同上「坂本龍馬のハネムーン」(https://www.city-kirishima.jp/kirikan/kanko/bunka/sakamotoryoma.html 2025/9/5参照)
・同上「沿革」(https://www.city-kirishima.jp/kikaku/shise/shinoshokai/gaiyo/enkaku.html 2025/9/6参照)
・同上「国分基地特攻隊員戦没者慰霊祭」(https://www.city-kirishima.jp/soumu/kosodate/senbotsusha/iresai.html 2025/9/6参照)
・神社本庁「天孫降臨」(https://www.jinjahoncho.or.jp/shinto/shinwa/story7/ 2025/9/4参照)
・鹿児島県「隼人の抗戦」(https://www.pref.kagoshima.jp/ab23/pr/gaiyou/rekishi/genshi/hayato.html 2025/9/5参照)
・霧島市立宮内小学校「「茶わんむしのうた」について」(https://www.mct.ne.jp/users/miyauchi/tyawanmusi.html 2025/9/5参照)
・NPO法人きりしま創造舞台HP(http://k-sozobutai.com/ 2025/9/7参照)
・「霧島市市制施行20周年&きりしま創造舞台創立20周年記念ダブル20周年記念特別公演 市民ミュージカル 2025公演 ヒカルの夏 ~龍馬からの伝言~」公演パンフレット